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コラム:若林ゆり 舞台.com - 第127回

2024年12月8日更新

「天保十二年のシェイクスピア」で浦井健治の挑む醜い悪党が「まるで無理しなくていい役だった」という衝撃!

👁 シェイクスピア37作品の要素を巧みに取り込んだ「天保十二年のシェイクスピア」
シェイクスピア37作品の要素を巧みに取り込んだ「天保十二年のシェイクスピア」

撮影:若林ゆり

もしもシェイクスピアがいなかったら? そんな歌曲から始まる祝祭音楽劇「天保十二年のシェイクスピア」は、日本を代表する劇作家、井上ひさしが約50年前、シェイクスピアに真っ向から挑んだ意欲作だ。舞台は幕末へと向かう混乱の江戸時代。侠客の闘争を描いた人気講談「天保水滸伝」を軸に、シェイクスピア37作品の要素を巧みに取り込み、濃厚な人間悲喜劇として見事に描ききった、井上渾身の傑作戯曲である。

この戯曲が演出家、藤田俊太郎により新たな生命を吹き込まれたのが2020年。シェイクスピアの「リチャード三世」にあたる悪党「三世次(みよじ)」役を高橋一生が演じて大評判となったが、コロナ禍で東京の3公演と大阪公演が中止となってしまった。

その藤田版「天保十二年のシェイクスピア」が、この12月に再び幕を開ける。今回の三世次を演じるのは、4年前には「ハムレット」や「ロミオ」を背負った「きじるしの王次」役で出演していた浦井健治。役を替えての大きな挑戦をする浦井に、話を聞いた。

「正直、最初はすごく驚きましたし戸惑いもありました」と、浦井は「三世次役に」と言われたときの心境を明かす。「この作品で三世次をやらせていただくなんて夢にも思っていませんでしたし、『自分にできるのか』と。かなりの覚悟が必要でしたが、これほど役者冥利に尽きることはない。やらせていただくと決めたからには自分のすべてを懸けてやりたい、という気持ちがどんどん強くなりました」

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撮影:若林ゆり

いざ役に向き合ってみると、浦井は自分に「不思議な現象」が起こっていることに気づく。

「前任者である高橋一生さんの声と、ミザンス(立ち位置)と、抑揚と、テンポも含めた芝居が全部、自分の中に入っているんです。(藤田版)初演のときには稽古場でも本番中もずっと見ていたし、すごく憧れでもありましたし。耳の中、頭の中に響いている。それでセリフを自分が発する時にも、記憶の中の演技をなぞりそうになるんです。そのことに最初は焦りも感じましたが、ある瞬間から『一生さんの芝居をなぞったとしても、それが芸事として成立するからいいんだ』と思うようになりました。自分を通して出していけばもちろん違うものにはなる。でもどこか一生さんに似ている、というような役になっていると思います」

👁 「天保十二年のシェイクスピア」稽古場より
「天保十二年のシェイクスピア」稽古場より

撮影:若林ゆり

三世次はリチャード三世のみならず、「オセロー」のイアーゴーや「ジュリアス・シーザー」のブルータス、「マクベス」「ハムレット」などの要素を混ぜ合わせ生み出された “ザ・悪徳”のような人物だ。生まれ育った境遇と不運によって顔に火傷を負い、片足が不自由となり背骨が曲がり、しかも宿無し。八方塞がりの彼は言葉を操り、世の中を混沌に陥れることで生きる場所を得ようとする。

「悪いやつだけど、哀れな人物だと思います。そうなるしかなかった。その時代の底辺みたいなところから育っていて、親が無宿人だったからほかの道はなく、無宿者として生きていたら無宿人狩りにあって人足寄場(※江戸幕府が作った自立支援のための収容所)に送られ、そこから逃げて『捕まったら、死ぬ』というところからスタートしている。だから死がいつも目の前にあって、『何をしたってもう死ぬんだったらやってやろう』みたいなスタンスなんですね。だから強いんです」

👁 「天保十二年のシェイクスピア」稽古場より
「天保十二年のシェイクスピア」稽古場より

撮影:若林ゆり

前回演じた「きじるしの王次」では「ミュージカル界の王子」と言われる持ち前の個性を生かしつつ、匂い立つような色気と人間くささを鮮烈に打ち出し、新境地を拓いた浦井。だが今回の三世次は、さらに強烈なキャラクターであり、間違いなく「いままでに見たことのない浦井健治」が見られるはず。本人にとっても、新たな発見があるのでは?

「そうですね、でも、この役は思うよりも無理をする役ではまったくなかったんです。自分でも不思議なほど、『演じている感』はないというか。三世次に共感していると言ったらたぶん、人から信用されなくなると思うんですけど(笑)。でも、一生さんの三世次を見ていて思ったのは、すごく傷ついてきた人であって、そこに原動力の源があるということ。そこは理解できる」

「きっと自覚無自覚はあるにせよ、実は誰もが三世次を持っていて、理性でセーブして生きているんじゃないか。だからか、無理している感覚がまったくなくて、逆に『自分を解放している感』があったりする。劣等感だとか傷ついてきただとか、幼少期も含めて同情したくなる背景が描かれていて。でも、同情の余地がないようなことをするから、同情してしまった自分にハッとして恥じたりもする。リチャード三世という役は、演劇界で愛され続ける役、役者なら誰もがやりたいと憧れる役と言われていますが、そのなぜかを今まさに感じています」

👁 「天保十二年のシェイクスピア」稽古場より
「天保十二年のシェイクスピア」稽古場より

撮影:若林ゆり

三世次は双子のお光、おさち(唯月ふうか)に恋をする。自分が醜い外見だから愛を諦めてきた彼だが、諦めきれずに「自分も愛されるかもしれない」ともがく姿も一瞬、同情を呼ぶ。

「三世次の愛というのは、彼がやることを思えば絶対に純愛ではない。ただの自分のエゴというか、身勝手な欲望というか。それは許されることではないんですよ。そう考えると、この人に愛はあったのか疑問です。人をものとしか思ってないというか、つまりは自分がものとしてしか扱われてこなかった哀れさというか。幼少時代に何の愛も得られなかったから愛を知らない、そういう人物だと思います」

言葉の使い手である三世次のセリフには、井上ひさしが魂を削って書いた言葉が躍動し、井上自身も投影されているような気がしてくる。

「三世次が井上さんの分身だとしたらよほどの怒りを抱えていたのかもしれないですが、どの人物にもご自身を投影している部分があるのかもしれないと思います。言葉というものが人にどう影響するかとか、言葉がどれだけの武器、もしくは凶器であるかをまざまざと見せられますし。例えば嫉妬だとか疑念だとか、そういったものを言葉で操れば、人間は脆くも崩れるんですね。何が正しいとか正しくないって表裏一体というか、そういう人間の危うさみたいなものを、シェイクスピアはどの作品でも書いています。そこに井上さんは惹かれて、この脚本に集約したんだろうな、と想像しますね」

筆者紹介

👁 若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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