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量子力学の正しい間違え方
はじめまして。東京大学理学部物理学科の3年生(2022年現在)の稲田です。
さて、この記事を読んでいる方の多くはすでに量子力学を何らかの形で勉強したことがあると思いますが、皆さんは「量子力学を完璧に理解している!」と胸を張って言えるでしょうか。
僕には言えません。
そこで、『相対論の正しい間違え方』(松田卓也、木下篤哉)の形式に倣って、初学者が間違えやすいことや、もしかしたら今でも勘違いしたまま理解していることなどをテーマに、いくつかクイズを出題しますので、僕と一緒に量子力学の復習をしてみませんか。
答えや解説などは参考書などを参照しつつ書きますが、万が一間違っている点などございましたら指摘していただけるとありがたいです。
なお、想定している前提知識は量子力学の基礎レベルで、東京大学の学生であれば、前期課程の「量子論」の講義を受講していれば十分です。
まだ一度もちゃんと量子力学を勉強したことがないという方は、『量子論の基礎―その本質のやさしい理解のために』(清水明)などを読まれることをおすすめします。(実際、この記事にはこの本から引用する内容も多く含まれます。)
この記事は理物 Advent Calendar 2022の18日目の記事として書かれたものです。
あと、本日、12月18日はM-1グランプリ2022の決勝戦(と敗者復活戦)の日なので、是非見てください!!!
僕は真空ジェシカとヨネダ2000とキュウを応援してます。
Q1 複素数が必要な理由
問題
知っての通り、量子力学には複素数が用いられており、これは量子力学における原理や要請と言える。
それでは、複素数を用いてるのはどうしてだろうか。
また、複素数で本当に十分なのだろうか。
Q2 正準量子化を見つめる
問題
古典論で$ A := px $と表される物理量$ A $があるとする。
$A$を正準量子化に乗っ取って以下のように演算子にした。
\hat{A} := \hat{p}\hat{x}
この手続きは正しいだろうか。
Q3 続・正準量子化を見つめる
問題
古典論で$ B := p^2x^2 $と表される物理量$ B $があるとする。
Q2を踏まえて、$\hat{B}$がエルミート演算子になるように、以下のように正準量子化を行った。
\hat{B} := \frac{\hat{x}\hat{p}\hat{x}\hat{p} + \hat{p}\hat{x}\hat{p}\hat{x}}{2}
一方、以下のように量子化してもエルミート性は失われない。
\hat{B} := \frac{\hat{x}\hat{p}^2\hat{x} + \hat{p}\hat{x}^2\hat{p}}{2}
これらの右辺を比べると、
\begin{align}
\frac{\hat{x}\hat{p}\hat{x}\hat{p} + \hat{p}\hat{x}\hat{p}\hat{x}}{2}- \frac{\hat{x}\hat{p}^2\hat{x} + \hat{p}\hat{x}^2\hat{p}}{2}
= -\frac{\hbar^2}{2}
\end{align}
となり、これらは別の演算子になってしまう。
どうしてこのようなことが起きてしまうのだろうか。
Q4 運動量演算子の波動関数表示はどこからきたか
問題
波動関数表示での運動量演算子は以下のように対応することを示せ。
\hat{p} \leftrightarrow -i\hbar\frac{\partial}{\partial x}
ただし、用いて良いのは正準交換関係$[\hat{x},\hat{p}]=i\hbar$のみである。
Q5 運動量演算子は本当にエルミートか
問題
Q4で示したように、波動関数表示において、運動量演算子は以下のように表される。
\hat{p} \leftrightarrow -i\hbar\frac{\partial}{\partial x}
ここで、$\hat{p}$はエルミート演算子であるので、右辺のエルミート共役を取ってこれを確かめてみる。
実数の部分についてはエルミート共役を取っても変わらないはずなので、
\begin{align}
\left(-i\hbar\frac{\partial}{\partial x}\right)^\dagger &= (-i)^\dagger\hbar^\dagger\frac{\partial}{\partial x^\dagger}\\
&= i\hbar\frac{\partial}{\partial x} \leftrightarrow -\hat{p}
\end{align}
となる。つまり、$\hat{p}^\dagger = - \hat{p}$となってしまい矛盾する。
どこで間違えてしまったのだろうか。
Q6 デルタ関数にご用心
問題
$\langle x | x' \rangle = \delta(x-x')$で規格化されている連続固有状態について、$\langle x |[\hat{x},\hat{p}]| x \rangle$を計算すると、
\begin{align}
\langle x |[\hat{x},\hat{p}]| x \rangle & = \langle x |(\hat{x}\hat{p}-\hat{p}\hat{x})| x \rangle\\
&= \langle x |\hat{x}\hat{p}| x \rangle-\langle x|\hat{p}\hat{x}| x \rangle\\
&= x\langle x|\hat{p}| x \rangle - x\langle x|\hat{p}| x \rangle =0
\end{align}
となるが、$\langle x |i\hbar| x \rangle = i\hbar\langle x | x \rangle \neq 0$であり、矛盾する。
どこで間違えてしまったのだろうか。
Q7 続・デルタ関数にご用心
問題
まず、以下の2項目の理由を説明せよ。
- ポテンシャルが有限の領域において、波動関数は連続で微分可能である必要がある。
- 一方、ポテンシャルが発散する(長さを持つ)区間があるとき、その区間で波動関数は0である必要がある。
次に、ポテンシャルがある一点でのみ発散する場合、どのような条件を満たす必要があるかを考えよ。
例えば、$V(x) = V_0\delta(x)$ではどうか。
あとがき
いかがだったでしょうか。説明が拙い部分もあったかとは思いますが、皆さんにとってほんの少しでも役に立っていれば幸いです。
まえがきにも書きましたが、もし間違いを発見された場合にはコメントで教えていただけると助かります。
また、今回の問題を踏まえて、こういう問題も作れそうといったアイデアもお待ちしております。(場合によっては追記するかもしれません。)
最終的には自分で問題を作って解決できるのが一番その理論を理解している状態だと言えると思いますので、量子力学に限らずいろんなことに試してみると良いと思います。そうしているうちに、実は新発見の問題ができていた、みたいなことがあったら楽しいですしね。
参考文献
『量子論の基礎―その本質のやさしい理解のために』 著・清水明(サイエンス社)
『場の量子論: 不変性と自由場を中心にして』著・坂本眞人(裳華房)
『数理科学別量子力学から超対称性へ 超対称性のエッセンスを捉える』著・坂本眞人(サイエンス社)
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