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「坂本さんだったらAIとどう対決していたのかな」岡村靖幸&藤原ヒロシが1984年の坂本龍一ドキュメンタリーを観て考えた音楽、テクノロジーの変遷

2026年2月10日 13:00

👁 「Tokyo Melody Ryuichi Sakamoto」トークを行った岡村靖幸と藤原ヒロシ
「Tokyo Melody Ryuichi Sakamoto」トークを行った岡村靖幸と藤原ヒロシ

1985年に製作された日仏合作による坂本龍一のドキュメンタリー「Tokyo Melody Ryuichi Sakamoto」4Kレストア版公開を記念し、2月8日、岡村靖幸藤原ヒロシによるトークイベントが109シネマズプレミアム新宿で開催された。

エリザベス・レナード監督による本作は、1984年、バブル期の東京でわずか1週間という短期間で撮影され、スタジオでのレコーディング風景やインタビューを軸に、当時30代の坂本龍一が自身の生い立ちから音楽哲学、文化について語る貴重なドキュメンタリーだ。

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(C)Elizabeth Lennard

「ヒロシさんとはドキュメンタリー好き仲間としてよく交流している」と藤原とLINEでのやり取りで映画の情報交換をしていると明かす岡村。今回の4Kレストア版劇場公開以前に、DVDで鑑賞しており「すごく貴重なドキュメンタリーです。坂本さんのアルバム『音楽図鑑』のレコーディングやその当時の東京の風景、今だったらこれOKできるのかな? という映像や、スタジオでご飯を食べているシーンなど貴重な映像満載で、当時から面白いと思っていました」「40数年前の秋葉原や新宿のアルタの前の映像なども出てきて、今とは全然違う価値観のものが置いてあったり、竹の子族やロックンローラー族みたいな人たちが映っているのも感慨深い」と感想を述べる。

岡村とのリアルでの対面を喜ぶ藤原は、本作を1週間前に初めて鑑賞し「僕は坂本さんより全然年下ですが、1982年から東京にいて、一緒にお仕事はしたことはないですけれども、挨拶程度のお話もさせてもらって、同じ空間にいることが結構あったんです。その当時の音楽の作り方や、(サンプリングシンセサイザーの)フェアライトが出てきて懐かしかった」「坂本さんは映画の中で『政治の時代が終わった』というようなことを仰っていて、70年代を経て、坂本さんが見る80年代の東京の虚しさみたいなものも表れているかも」とコメント。竹の子族やロックンローラー族の映像は、トーキング・ヘッズのPVにも使われており、外国人から見た当時の日本の若者のカルチャーの独自性についても言及した。

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(C)Elizabeth Lennard

この日岡村は、印象的なシーンや坂本の言葉を書き留めたり、作品についての下調べをした数多くの資料を携えてトークに臨んでおり「アルタのビジョンでYMOの映像が流れる場面が出てきますが、監督のインタビューでは、(映像を流す枠を)買い取ったそうです。今のようなCGではなくて、実際に流したんだと思ってなるほどなあ……と。あと繋ぎがすごく上手で、あの場面から本当のライブのシーンに移るところが本当に綺麗でした」と、写真家としても活躍したエリザベス・レナード監督の手腕を称える。

そして、劇中で坂本が操作するフェアライトやレコーディング風景、音楽の話題に。岡村は「『音楽図鑑』の中の『M.A.Y. In The Backyard』という曲のレコーディングの映像を見れたのがとても貴重でした」、藤原は「僕は、マニアックに坂本さんの音楽を聞いていたわけではないのですが、当時の奥様の矢野顕子さんとピアノを演奏しているところ」とそれぞれの印象深かった場面を挙げる。

映画の中で、坂本が操るフェアライトについて、80年代からDJとしてサンプリング自体は知っていたという藤原も、初めて実物を目にしたのは当時1200万円以上したという同機だったという思い出を明かす。

そして、「今みたいにSNSもないから、わざわざ見に行くということに価値があったんです。坂本さんも(映画の)中で“スクラッチ”という言葉を言っていましたが、DJの僕も何度もいろんなところに呼ばれて、『一体何をやっているのか見せてくれ』という感じで、アルファレコードに行ったり、いろんなところで実際どういうことをやるかを見せに行ったことがあります」と当時を振り返る。

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藤原のコメントを受け、岡村はレコードを楽器のように操ってノイズ音を出す、スクラッチという演奏法に対する坂本の捉え方が興味深かったそうで「坂本さんはスクラッチのことを、『ポストモダンだ』と言っています。音楽的にはわからないけども、行為自体をアートと捉えると、非常にポストモダン的な行為であると。僕もここは引っかかるなと思っていて、今現在でもスクラッチが一般的になっていることを考えると、実際そうだろうなと思う」と述べる。

藤原も「そうですね、当時一般的にスクラッチと言われていたのは、シュシュシュ……という音だけのイメージだったんですけど、実はサンプリングというものの元祖だったというか。そういう意味で、フェアライトができるサンプリングが一般化して、あの時『こんな楽器が出たらオーケストラがいらなくなるんじゃないか』とか『生のアーティストもいらなくなるんじゃないか』なんて、危惧されていた方がいっぱいいたんです。その音楽業界のみなさんが話題にしてるのが、今のAIの状況に近いと思う」と自身の体感を語る。

岡村も藤原の意見に同意し、「坂本さんはフェアライトや最新のテクノロジー、コンピューターなどにいつも目を光らせていましたから、今の時代、坂本さんだったらAIとどう対決していたのかなって考えると興味深いですね」とコメント。藤原も「その当時のサンプリングで、フェアライトで1400万円だったものは、2年後ぐらいにはもうコルグで7万8000円くらいになっていて。そういう意味ではAIも同じような感じで進んでいるので、本当に一般化すると思うし、面白いなと思う」と音楽分野でのテクノロジーの進化の速さと現代のAIの進化は同様だと捉えている。

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(C)Elizabeth Lennard

テクノロジーの進化から、現代の音楽シーンについての話題に移り、岡村は「今のアメリカの音楽を聞くと、80パーセント以上ヒップホップの音楽がグラミーなどを占拠していますよね。僕はここまでヒップホップがメインカルチャーになるとは夢にも思わなかったし、坂本さんは、『テクノロジーがずっと進化していくことは止められないけど、そこで生まれる途中のエラーやノイズとか綻びみたいなもの、そういうものに僕は興味がある』ということを仰っていて。例えばパンクミュージックやヒップホップは、専門的な音楽教育を受けた上で誕生したものではなく、その歴史で言えばノイズとか綻びみたいなもの。それは理論的にわかることじゃなくて、ちょっと異形のものだったから面白くて、スリリングだった。だからこそ、ヒロシさんもパンクやヒップホップに行かれたのかなと」と、坂本のコメントを引用しながら、藤原に問いかける。

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藤原:「そうですね。僕も(専門的な音楽)教育を受けていたわけでもないし、いまだに音符は読めないので、音楽の理論はほとんどわからない状態でパンクやヒップホップに出会って今があるんです。坂本さんはそれとは真逆で、ものすごくアカデミックなところから来ている方。もしかしたら、本来アカデミックな人たちは、パンクやヒップホップ、サンプリングなりにアンチだった人が多かったと思うんです。そこを、綻びと捉えたり、ノイズに興味を持って真摯に向き合ったっていうのはすごく坂本さんらしいと思います」

映画内での坂本の印象的な言葉について、岡村は「坂本さんは『映画音楽に限らず、音楽というのはある程度予想された部分と、予想されているという前提にあってそれを裏切るカウンターパンチを入れる部分と、そのバランスで出来上がっている』と仰っていて、これは僕はよくわかるんです。全編わかりやすい感じで流行やポピュラリズムに迎合する感じではなく、そこでのバランスが大事だと仰っていると思うんですが、まさに坂本さんの音楽はそのバランスが絶妙。ここでこう行くか……みたいなメロディがたくさんあるし、前衛的な部分もあるし、もう本当に感動的な美しいメロディもあるし。わかりやすい部分と、『ここは俺ちょっとひねっとくよ』とか『ここはちょっと分かりにくくしとこう』とか、そういうバランスはどんなアーティストも、どんなものを作る人もみんな考えていることなんじゃないかなと思うので、いい言葉だなと」とクリエイターとして自身が共感したポイントを挙げる。

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藤原は「僕は坂本さんの音楽はすごくループ感を大切にしている気がするんです。同じフレーズが延々とあって。一般的なクラシック畑の人って、常に違う綺麗なセグメントに行くんですけど、坂本さんはすごいループ感を大切にしていて。映画の中でも、この人はアクティビストだな、っていう感じがあるんです。アカデミックですけれど、やっぱり反体制というか、そういうところを常に持ってる人なんだなと感じました」と音楽や文化に対する坂本の姿勢について言及する。

さらに岡村は「僕は一貫して坂本さんに関して思うのは、何をやってもかっこいいということ。お化粧しても、ファッションが似合う、華がある人だった。特に80年代なんて、いろんなCMに出ていましたし。お笑いみたいなこともやってましたよね。お笑いもできればめちゃめちゃかっこいいのもできたし、実験的なこともやったし、オーケストラもできる……そんなトリックスター的な部分があったと思います」と多彩な活躍を見せた坂本の才能と人物像を評した。

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そして最後に、本ドキュメンタリーの楽しみ方を問われ、ふたりは感慨深げにそれぞれの見どころを紹介した。

岡村:「坂本さんはいろんな大事な言葉を仰っていますが、1回だけでは見逃してしまうと思うので、何回か言葉を聞きながら映画を見ると、84年という時代、坂本龍一さんがYMOを終えてどんな心境だったかもあぶり出されてきます。映像の面白さを堪能したら、2回目、3回目は何を喋っていたかを追いかけるのが面白いと思います」

藤原:「僕はこの映画と同世代なので、懐かしいという見方をしてしまうのですが、そうではない違う視点で見ても新しいものが発見できると思います。坂本さんの言葉の中からは、今に繋がる何かが隠されてるんじゃないかな。あと、話をするときに少しだけ照れが入ってるのかなっていう瞬間もあったりして。普段喋る時も、ちょっと照れながら喋る感じの方でした。そこがかっこいいところなんです」

Tokyo Melody Ryuichi Sakamoto」4Kレストア版は全国で公開中。

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