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⇱ 鬼 ボーナス・トラック付きで『湊』配信開始 & インタビュー - OTOTOY


2011/04/20 00:00

待望の新作『湊』が配信開始!

。こんなストレートすぎる名前でラップしているのに、彼がシーンの中で後ろ指をさされないのは、そのスタイルの重さにある。不安定な毎日の様子が伝わってくるリアルな底辺の生活描写は、そこに、自身の経験が備わっている事を聴き手に疑わせない。彼のスタイルを世に知らしめた代表作のタイトルは、の出身地でもある「小名浜」。福島県いわき市の港町であるこの地は、今回の震災で一瞬のうちにそれまでの町並みを失くした町の名前である。当然、震災後一ヶ月以上してリリースされるアルバムの『』は、非常に重い内容のアルバムになると思われた。

しかし、手元に届いた音源は、全く予想と異なるものだった。率直に言うと、今作に関しては、全体的に明るい印象を持ったのだ。中には、完全に下ネタに走ってすらいる! 彼の世界観は以前から昭和の場末のような雰囲気が漂っていたが、今作はそれが最も素直に表されている。スナックでの戯言のように、時に寂しさを酔いで愉快に茶化したかと思うと、過去をふと振り返っては渋い顔になる今作の。ところが、彼は、終盤にかけて見たことのない顔になる。優しさに溢れた言葉を、が語りかけてくるのだ。それはまるでラップというより、ポエトリー・リーディング。このハード・コア・ラッパーに何が起きたのか。また、地元が被災地となったにしては陽気に見えるアルバムを制作した本人は、今どのような胸中なのか。は口を閉ざすこと無く、しかし顔を悲しみと苦痛に滲ませながらも、真剣に答えてくれた。音源にはのる事のないの言葉を知っているのと知らないのとでは、『』に関して全く違う印象を持つはずだ。

インタビュー&文 : 斎井 直史

鬼の渾身のライムを感じ取って下さい。ボーナス・トラック付き!

鬼 / 湊
1. 自由への疾走 / 2. しのぎ / 3. ひとつ / 4. 感想文〜阿片戦争〜 / 5. SKIT〜性教育〜 / 6. なんとなく / 7. 酔いどれ横町 / 8. つばめ / 9. 言葉に出来ない / 10. またね / 11. 木馬と彼女(アーティスト:指ストンず。)

【参加MC】
BLOM、K.E.I、D-EARTH&輪入道、CRAZY-T、般若、SHINGO★西成

【特典】
アルバム購入者には、配信限定ボーナス・トラックが付いてきます!!

お前も被災者だかんな

ーー非常におうかがいしづらいのですが、さんの地元である小名浜のほうが今大変な状況ですが、お身内は...

鬼(以下、O) : まぁ... 身内は避難しています。なるべく南の方にって事で、妹家族は奄美の方に受け入れてもらってます。

ーー「小名浜」のヴィデオで、駅が出てくるじゃないですか。今の状況をYouTubeで観ましたが、駅周辺もかなり被害が大きかった様子で...。

O : ... そうですね。俺、小名浜駅の辺で働いてたから、YouTubeにアップしてあったやつには、昔働いていた事務所とかが映ってて... そこに... 船があるんですよね... 。やっぱこう... なんつうのかなぁ。正直、俺は地元には帰ってないんですよ。あっちから避難してくる人間の方が大切なんで。

ーーでも、どうしても辛い思いになってしまいますよね。

O : そうだねぇ。店の店長に言われたんだけど「お前も被災者だかんな〜」って。俺、その時は... ちょっと泣けた... 。自分がそう言われるとは思ってもいなかったし、あんなんになると思ってなかったから。

ーー今まで大変な事が起きているニュースとかを見て心痛める事はあっても、身の周りで悲劇が起きると、普段は考えたことない事と向き合ってしまいますよね。

O : そうだねぇ。やっぱり実際に身近に起きないと分からないことってものすごく多い...

ーー最初からお答えしにくい事を訊いてしまい、申し訳ありませんでした。というのも、アルバムを聴いて驚いたのは、今までになく全体的に陽気な印象を受けたので。

O : ありがとうございます。

ーー例えば、今までのスタイルである強面で社会の闇を語る部分を全面に打ち出していくことも...

O : 可能でした。

ーーしかし、あえてその道を選ばなかった。使う音も変えた印象があります。

O : フォー・ビートってんですか? スウィングしてるのが昔から好きなんですよ。癖なんでしょうね。まぁ、いろんなの聴いたけど。

ーーこれまではあまり使わなかった音ですよね。今回そうした素直なチョイスをしたのは、なぜですか?

O : まず、どこに自分を置こうかを考えたんです。その時々の流行の中で自分を出していくには、どういう立ち位置で、どういう楽曲を選んで、どういう言葉を選ぶか。つまり、ただの切り口ですよね。

ーーいままでのスタイルだって、充分すぎる程に素直なスタイルに聴こえました。おそらく波乱のある人生の中で経験をされてきた事が、言葉と音楽から伝わってくるものかと思います。もしよかったら、どんな経験をされたのか、教えて頂いてもよろしいですか?

O : ただの下手打ちですよ。自暴自棄になっている時期があったんですね、塀の中は変な社会が出来てるというか... あそこはどうかしてるよ。俺はそれに反発してたんです。リリックでも言ってるけど、薬に手を出したり色々やってて、もう身も心もヨレヨレの状態... 2009年の終わりにきっかけがあって、ようやく辞められたんだ。本当にやりたい事をやろうと思って。

ーーやりたい事とは、音楽?

O : ...うん。獄中の話の続きになるけど、初犯の頃に書いてきた『獄中手記』ってのが数曲があるんですが、まだ出してませんがそれはもう... 自分でも出す気になりません。

ーーネガティヴという事ですか。

O : はい。

ーーこれまでも確かにネガティヴなテーマを描写するものが多かったですが、今回はそういった事を笑ってはぐらかしちゃおうみたいな感じですよね。

O : 「今からピンサロ行っちゃう? 」くらいで(笑)。

ーー(笑)。そのネガティヴな事に対してのスタンスの違いは、今作の聴きどころかなぁと思いました。

O : まぁ、今回はこれまでの曲みたいに「俺が俺が」じゃなくって、「お前どう?」っていう風なのかな。「俺はこうなんだ」っていうより、「最近お前調子どう? 」みたいな感じ。

ーーそれは意外な回答ですね。確か、前作リリースされた時は、真逆の事をインタビューで答えていますよね。「周りを気にせず、言いたい事を言う」と。

O : それは、人に対して、ですね。実際、(シーンの中でどう扱われようと)どうでもいいんですよ。

ーー確かに、これまでは「小名浜」をはじめとして、ご自身のものかと思われるストーリー・テリングの曲が多い印象はありましたね。

O : まぁ、ヒップ・ホップはパーソナルな音楽だから。最初は「俺が俺が」から始めるちゃう。

ーーキャリアを重ねられているアーティストって、そうしたストレートな自己主張から、音楽に意味合いを持たせる作り方に変化していく人が多いかと思うのですが... ?

O : 同じこと言う人もいるでしょう?

ーーこの間インタビューさせていただいたROMANCREWさんも、曲のテーマ設定を全員で緻密に考えられたと仰ってました。

O : なるほどねぇ。ん~、多分ちゃんと成長しているんじゃないですか?

ーー成長している?

O : 「やりてぇようにやっちまえ」じゃなくて大人になれば、「俺が俺が」だけで終わらせたくないと考えるようになる。言葉をしっかり伝えようとする。それって、自己顕示欲の成長だと思うんですよね。

ーー確かに。同じような音楽を、同じようなメッセージでやって成功しているアーティストって、あまり居ないかもしれないですね。

O : そうでしょう。「あれが好きだ」「これが好きだ」って「あたりめーだよ! みんなそうだよ!」ってなる。(笑)

まだ終わってねぇ。

ーー(笑)。ところで前作出された後は、「次は重い曲をリリースしたい」なんて仰ってましたが。

O : じつはあの時、獄中手記を出そうと考えてたんです。でも、疑われるから辞めた(笑)。ほんとに封印してますよ、アレは聞けたもんじゃないし売れる代物じゃありません。まず俺が聴きたくないもん。

ーー時期的に考えて、震災後、新たに曲を足す事は考え...

O : (遮って)ふざけてるよね、そうゆう奴。だって、まだ終わってねぇもん。クソだよ。なにも分かってねぇ。何も終わってねぇ。

ーーでも、そう仰るのは、本当にリアルな声なんだなと思います。

O : あのさ、まだ行方不明者が一万何千人いて、その中に生きてる人がまだいるかもしれない。亡くなった方もいるだろうけど、家族や友人の帰りを待つ人がまだいるんだよ。終わってない。これは、映画でもドラマでもない。

ーー例えば、勇気づけようとする曲をつくるアーティストについては、どう思われますか。

O : なんも思わない。

ーーそれは、共有できない何かを感じてしまうとか... ?

O : 「何が言えんの?」って感じ。... こうして話してても、さっきの余震の震源地は地元で、電話も繋がらない... 勝手に歌えって感じだよ。斉藤和義さんでしょう? 好きな歌あるけど、あれは聞けねぇよ。

ーーつまり、曲を足さないのは、さんの考えの現れなんですね... 足そうと思えば、今回いただいたボーナス・トラックみたいに足せたにも関わらず...

O : こうやって話した事が、全部覆されるような曲だけどね(笑)。「てめぇウソついてんじゃねぇ!」とか言われちゃったりね(笑)。

ーー今回はボーナス・トラックには勿体無い曲を頂きまして、ドッシリとしたハード・コアな音で、喜ぶファンは多いかと思います。

O : でも、こんなにいやらしくなるとはねぇ(笑)。「週休二日で肉便器」とかも(笑)。いや、このリリックの裏側にあるコンシャスを... これは妄想なんかじゃない(笑)!

ーーそういえばスキットの「SKIT~性教育~」もかなりエグかったですね(笑)。

O : まぁ、スキットなんでね。遊びですね。

ーーちなみに、「よいどれ横丁」ではSHINGO★西成と般若、そしてという並びで、ユニットを組んでほしいくらいのメンツですね!

O : 般若君とはCrazyーTのライヴに出た時に会って「いっしょにやろう」って事になって、SHINGO君は前々から付き合いがありまして、二人とも昭和レコードだから、一緒にやらせてもらいましたね。

ーー(笑)。でも、この曲は今作『』の中でも、いままでに無い音の代表だと思うんですよね。それこそ、ジャズの音を使っているけど、サンプリングとかではない。昭和チックな空気を感じさせるジャズですよね。

O : そうだね。

ーー今回、そうしたトラックを選んだ経緯というのは?

O : 今まで音もらってきた人達は、俺のイメージを音で表現できる人を選びました。まぁ、音選びはそれこそ性癖に近いですよ。でも新しいモノも取り入れていきたいから、RUMCHOP、BEAT奉行、LIBROに頼みました。

ーー今、さんに刺激を与えてくれるビート・メイカーやアーティストが入れば、国内外問わず教えてください。

O : 中山うりちゃん。彼女の曲で「マドロス横丁」っていう曲があるんですけど、ほんとに「小名浜」って感じなんだよねぇ。酒場で大酒飲んでる漁師がバカみたいに酒飲んでて、ホステスさんにソープの姉ちゃんもまで居て。そんな風景を思い出すんよ。

ーー最近の日本語ラップを聴いていて思うのは、ラップは今の時代のブルースみたいですよね。そして、中山うりさんもブルース的だと思います。

O : この国に限ったことじゃないけど... 惨すぎて目を反らしてしまう事実なんてのは、思ってる以上に多くて辛くなる。涙を流すほど貧しくて苦しい時代であったとしても、子供の将来と日本の未来の為に、一生懸命生きていた人の思いが、現代日本人の根っこだと思う...。ブルースはどこにだってあるし、どこを探しても見つからない。ブルースは人間から滲み出るもので、そんな奴がブルース・マンって呼ばれるんだってさ。... にしても、中山うりちゃんは気になるんだよねぇ...。それと酒匂ミユキ... かな。

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PROFILE


福島県いわき市出身。スカーズのプロデューサー"SAC"のデビュー・アルバム「Feel or Beef」 や"SEEDA & DJ ISSO"の「CONCRETE GREEN」の客演により、圧倒的な存在感でオーディエンスを魅了し、その後、250枚限定(アナログ)でリリースされた問題作「見えない子供、見てない大人」が即売れ切れる等、マニアの間でブームを起こす。直球勝負のリリックと、気合いの入ったフロー、パンチ・ライン続出の超重要人物! 今後の動きに目を離せない要注目ラッパー。SEEDA、DJ ISSOといったSCARSの面々や漢、JUSWANNAといったLIBRAクルーとも共演し、その歯に衣を着せぬハード・コアなスタイルが各方面で話題をかっさらっている。

鬼 official HP

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斎井 直史

音楽業界をおもしろくしようとOTOTOYに詰め寄ったところ、今では色々調教されて悦んでいる。大学生活をキック・ボクシングに投げ打った反動で、今、文科系男子への衝動がと・ま・ら・な・い! ヒップホップが好きです。ニュートラルに音楽を捉えて、「一般ピープル視点を失いたくない!」と思ってる一般ピープル。

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