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"OTOTOY REVIEWS"はまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜からエッセンシャルな9枚を選びレヴューするコーナー。今回は小林祥晴による、洋楽ロックを中心とした9枚です。
OTOTOY REVIEWS 106
『ロック(2025年9月)』
選・文 : 小林祥晴
アルバムの幕開けを飾る「Trinidad」が変拍子だと気づき、試しに3拍子や5拍子でカウントを取るとズレていく。3拍子を三回繰り返した後に4拍子を一回?それとも5拍子を二回繰り返した後に3拍子を一回?いずれにしても、ロックやポップの世界では比較的珍しい(古風な言い回しでは変態的と呼ばれそうな)13/8拍子の曲でアルバムを始めるという判断に、バンドの偏執的なこだわりと高い志が垣間見える。今作の根幹にあるのはブルーズやカントリーを基盤にしたロックだが、彼らはそれをひたすら脱臼させ、解体し、奇妙な形で組み直すことで、まだ見ぬ地平へと私たちを連れて行こうとしている。ウクライナ聖歌隊のサンプルやキャプテン・ビーフハート風のリフから、捻じれたリズムや美しいスライド・ギターまでを目隠しで無造作に組み合わせたような混沌の美。「俺の車には爆弾があるんだ」「戦時下には誰もが笑顔じゃなきゃいけない」などといった現代の不安を切り取ったような歌詞は、今作に通底する黙示録さながらの不穏なムードに呼応している。どこか不気味だが美しくもあり、鮮烈な刺激に満ちている、2025年におけるUSインディ最高到達点のひとつ。
歪んだギターの強弱でダイナミクスを生み出すグランジ譲りの手法と、ラップ・スティールが生み出すカントリー的なフレイヴァーの融合――今作はそんなウェンズデイが追求してきた美学をさらに発展させ、これまででもっとも魅力的な形で結晶化させた傑作だ。アコースティックの静謐な「The Way Love Goes」から、86秒をハードコアの猛烈な勢いで駆け抜ける「Wasp」まで振れ幅は広く、その両極の間で確実に練度を増したアンサンブルが多彩な音楽的アイデアを展開。よりメリハリのついた演奏は、カーリー・ハーツマンの歌をこれまで以上に引き立てる結果にも繋がっている。アルバム制作中にハーツマンとギタリストのMJ・レンダーマンが破局したこともあり、その傷心を歌ったと思われる曲もあるものの、基本的に今作の歌詞は閉塞感や死の匂いがべっとりとこびりついた短編集。それは彼らの故郷であるアメリカ南部の「出口の無さ」を伝えるものだが、ハーツマンが愛着と慈しみを込めて歌うことで、そこには胸が締め付けられるような切なさが宿る。その奇妙な美しさとハーツマンが描く人々の逞しい姿は、トランプの台頭以降、アメリカ南部に貼られた「後進的で排他的」というラベルが如何に一面的であるかを伝える役割も果たしているだろう。
今年4月の来日公演でアビゲイル・モリスが「いまカントリー・アルバムを作っている」とMCしたときは、昨今のカントリー・ブームに対するアイロニー混じりの冗談かと思った。だが、来たる新作『From The Pyre』からの先行カット曲に関しては、少なくとも嘘ではない。本人たち曰く、これはカントリー・ポップ調のマーダー・バラッド。ニック・ケイヴのようにおどろおどろしい雰囲気で始まったかと思ったら、大胆な転調を挟んで軽快なカントリー・ポップへと飛躍する。そのドラマティックな展開はいかにもTLDPだ。彼女たちらしさと新しさが絶妙なバランスで拮抗しており、成功後の「次の一手」として理想的だろう。歌詞は、恨みを抱いた相手を殺める殺し屋を主人公にした物語仕立て。これは元パートナーへの復讐劇とも、誤解を基にバンドを批判したメディアやオーディエンスへの反撃とも受け取れる。どちらの意味で解釈するにせよ、「私がテレビに出るのを観て、あなたが怒り狂えばいい」という一節は、最高に皮肉が効いていて痛快だ。
音楽ライター。OTOTOYのほか、Rolling Stone Japan、Harper’s BAZAAR、ミュージック・マガジン、WWD、bounceなどで執筆。
1981年生まれ。ビヨンセとは1日違いで時差的に多分ほぼ一緒。渋谷区幡ヶ谷出身。2004年~2009年『remix』編集部で丁稚から編集者へ、LIQUIDROOM勤務やのらりくらりとふらふらとフリーを経て、2013年よりOTOTOY編集部所属、現在編集長。テクノあたりとダブステップあたり、ルーツ・レゲエ〜ダブあたり(そのあたりでライナーノーツなど多数)、その他では酒あたりと本あたり。
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